仙台高等裁判所 昭和26年(ネ)46号 判決 1951年7月23日
靑森県上北郡三本木町
控訴人
三本木税務署長
駒嶺誠丸
法務府総裁指定代理人(法務府民事訟務局第一課長)
堀内恒雄
同
(法務府事務官) 横山茂晴
源義一
同
(仙台法務局長) 加藤隆司
靑森県上北郡三本木町大字三本木字南金崎六番地六号
被控訴人
太田文吉
右訴訟代理人弁護士
菊地養之輔
嘉藤亀鶴
右当事者間の仮処分異議控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原判決を取消す。
被控訴人の本件仮処分申請を却下する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
本判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
控訴代理人は主文第一、二、三項同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において「被控訴人の有する特許番号第一七八、一二五号滋養食品製造法の特許はその名の示すとおり、方法の特許であつて、物の特許ではない。方法の特許は公知公用の物についても、飮食品又は嗜好品についても許されるのであつて、現に公知公用の酒その他の飮食物についても多数の特許が存することは顯著なところである。」と述べたほか、原判決事実摘示と同じであるから、こゝにこれを引用する。
疏明として被控訴代理人は甲第一号証(本案訴訟の控訴審における被控訴人本人太田文吉の訊問調書)を提出し、乙各号証の成立を認め、控訴代理人は乙第一乃至第五号証、第六号証の一乃至八を提出し、甲第一号証の成立を認めた。
理由
被控訴人の本件仮処分申請は、被控訴人の有する特許番号第一七八、一二五号特許権によつて製造されるものが酒税法にいう麹にあたらないことを基礎とするものであることは被控訴人の主張自体に徴し明かである。
ところで被控訴人が右の特許権をもつことは控訴人も争わないところであるが、成立に争のない乙第二号証によると右特許権は「滋養食品製造法」と名付けられた滋養食品の製造方法に関するもの、即ち「、大麦、小麦その他の穀類及び雑穀類を脱脂乳に浸漬して蒸炊し、種麹を加えて製麹し、これを乾燥した物又は出来上りのまゝの物に牛乳と酵母を加えた液を吸收させ、乾燥粉末とすることを特色とする滋養品製造法」であつて、製造の結果出来上つた物自体についての特許でないことが疏明し得られる。而して右特許の方法によつて製出されるもの(製造の過程における製品たると出来上り品たるとを問はず)が酒税法にいう麹に該当する限り同法所定の許可を要することはいうまでもないところであつて、その化学的成分の点において一般の麹との間に若干の相違があつても右の結論を左右するものではない。
酒税法第十六條にいう麹とは穀類その他の物に類を繁殖させたもので澱粉糖化酵素剤として利用し得るものを指すのであるが、被控訴人の前記特許の方法によつて製出される物が、右の麹に当らないことは被控訴人の疏明方法によつてはいまだ疏明し得られないのみならず、成立に争のない乙第一乃至第五号証によれば、右特許方法により製造される物は、その過程における製品も、出来上り品もともに充分な糖化酵性をそなえた麹にあたり、酒精含有飮料の原料として使用し得るものであることの疏明十分である。
されば前記特許の方法によつて製造されるものが酒税法にいう麹にあたらないことを前提とする被控訴人の本件仮処分命令申請は爾余の点についての判断をまつまでもなく理由がないものとして排斥すべきである。
以上と異る見地に立脚する原判決は失当で本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三八六條、第九六條、第八九條、第七五六條の二に則り主文のとおり判決する。
(裁判長判事 谷本仙一郞 判事 猪狩真泰 判事岡本二郞は填補のところ帰任のため署名捺印することができない。裁判長判事 谷本仙一郞)